歩きながらのメールは禁止
よく歩道をチャリで走りながら、しかも携帯やスマホでメールをしている馬鹿者がいるでしょう。
ある時の休日、俺が楽しみにしている“昼酒”をやりに行くために、部屋から十分ほどの距離にある、手打ち蕎麦の旨い店に向かっている時の事だった。
前からその携帯メールを打っている馬鹿男が、チャリを結構な速度で転がして来た。俺は“あぶね〜な”と思いつつ、斜め前を見ると、これもまたメールを打ちながら歩いている若い(俺よりも少し年下かな)女性がいた。
その馬鹿チャリは、その女性に一直線に向かっている。このままじゃ危ないと思った俺は、どうするのかを迷った。走って行って馬鹿チャリに蹴りを入れて倒すか、大声で怒鳴り、彼女に注意を喚起するべきか、一瞬迷った。しかし、大声で叫んで注意喚起をしたところで、彼女が自分の事だと気づく可能性は低いだろうと思った時には、チャリに向かって走ったところで間にあわない距離になっていた。
俺は躊躇わずに彼女に向かって走り、彼女を抱きかかえてポジションをチャリの通過点から辛くもずらす事に成功した。そして、馬鹿チャリに「あぶね〜だろ、この馬鹿」と怒鳴った。勿論、彼女に原因を知ってもらうためでもあったのだが。
そうすると馬鹿チャリはいきなり急停車して、男がチャリを降りて俺の方へ向かってきた。さらにその男はいきなり俺に向かって、右のフックを放ってきたのだ。
素人のパンチが当たる訳もなく、そのパンチは虚しく空を切るだけならまだしも、俺にその手を掴まれて逆にねじられて、地面にねじ伏せられたって言う訳。
彼女は結構びっくりしていたが、どうしていいのか判らなかったようで、俺が警察を呼ぶように言うと携帯で110番をしてくれ、待つほどもなく交番から警察官が二人きて、この場を収めた。
野次馬の中に何人か、一部始終を見ていた人がいて、俺の正当防衛を証言してくれたので、俺は住所と名前、そして連絡先を訊かれ、持っていた免許証を提示して放免された。彼女も同じように放免されることになった。
俺は何となく“これから旨い蕎麦を喰って、旨い昼酒をやるけど、一緒に来るかい。勿論、御馳走するぜ”と言うと、何とついてい来るではないか。
良く見ると、昔の女優で早逝してしまった“夏目雅子”にちょっと似ている、健康的な美人だったことに気がついた。
季節がら“山菜の天麩羅”を中心にした摘まみを肴にして、辛口の冷酒を飲みながら、初対面とは思えないほど良く喋った。
俺が少し酔っ払って「メールは彼氏にかい」と訊いたら、「ちがいます、彼氏いない歴二年ですから」と言うではないか。
「それじゃ、俺にもチャンスありかな」と言うと「はい、絶対あります、っていうか、お願いします」って言う。夢か?と思い「酔ってそんなことを言うもんじゃないぜ。少なくとも俺の方が年上なんだからね」と言うと、「酔っていますけれど、付いてきたときには酔っていませんでした。なんだか、助けてもらったことが嬉しかっただけじゃないんですよね、本当に・・・・・・」と言う。
今じゃ、俺の大事な彼女になっている。勿論、歩きながらのメールは絶対禁止にしているけれど。
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